植物界のキーパーソンにスポットを当ててインタビューする企画、第3回目。
今回はハイクオリティなビカクシダのマダガスカリエンセを生産されているajianjijii(アジアンジジイ 以下ジジイさん)です。
2016年春に行われた植物イベントWILDWOODにて多くの素晴らしいマダガスカリエンセの魅力を関西に伝えた。
趣味が高じて関東でマダガスカリエンセを増やし続けるその道の第一人者。
庭に作られたビカクシダ専用の温室など、とても生育に力を入れている方です。
現在はWILDWOODなどのイベントやオークションなどで不定期に販売をされています。
自作温室の中で笑顔でマダガスカリエンセの魅力を語るジジイさん!
ーマダガスカリエンセとの出会ったきっかけは?
もともとはシダが好きだったんです。それを集めていてシダのことをネットで検索していて偶然コウモリランという植物を見たのが始まりです(この時はまだビカクシダという名前を知らなかったそう)。
そのとき実際に手にいれたものは名前がコウモリランとなっていて正式名称も分からないものでした。ちゃんと名のあるビカクシダが欲しいなとすぐに思いました。
そこでネットショップで検索しマダガスカリエンセやリドレイなどの子株を買ったのが始まりです。それから更にもう一つ買い足してそれらの子株がが増えて今に至ります(笑)。
ーマダガスカリエンセの魅力は?
圧倒的な葉脈ですよね。他のビカクシダには無い迫力と気持ち悪さ。
脳みその標本みたいにも見えるけれどそんなグロテスクなところも良い。
樹齢がいくと葉脈のボコボコがドンドン激しくなって更に気持ち悪くなるのですが、それがまた良いというか…笑
たった2つのマダガスカリエンセから始まり今やナーセリー状態。圧巻です!
ー一般的には「難しい」と言われているマダガスカリエンセですが、生育の秘訣などありますか?
正直全然分からないんです。特別なことは一切やってないし…僕はただ普通に水あげて育ててるだけ(笑)。逆に皆さんが難しいという理由が全く分からないんです。本当にただ乾かさないように水やりをしているだけ。
やりはじめた時は会社務めしていたので毎晩バシャバシャに水をあげるという生活をしていました。たったそれだけです。ただもしかしたらその水のやり方が良かったのかもしれないですね。
今だから分かることもあるんですけど、鉢植えは難しいと思います。
板付にすれば上から水をあげても下に流れ落ちるので一定の水持ちになるのですが、鉢植えになると水を含み過ぎちゃう。
ポイントは“水持ちを一定にする”ことだと思います。
あとは肥料は一切あげないです。その代わりに雨水をタンクに貯めて灌水するのでそれがいいのかもしれませんね。そもそも自然界に肥料なんてないですし。
僕は枯れて腐った貯水葉の栄養を根が吸っていると考えているのでそれもあって肥料はあげません。
1度固形の肥料をあげてそれが水で溶けて胞子葉についてしまい葉が枯れてしまったこともあります。
ー現在に至るまでどのようにマダガスカリエンセのことを学んだ、もしくは研究されたのでしょうか?
ロイ・ベール(ROY VAIL)さんというビカクシダの第一人者の方の書籍を持っている人がいてそれを全ページコピーしたものが参考書です。
これを僕に貸してくれた方はしばらくして他界されたので何かを聞くこともできない。
周りに植物をやってる人もいないし誰にも聞けないからこれを参考に勉強しました。
しかも全部英語!
もちろん僕は英語が読めないので辞書で調べたりして悪戦苦闘しました。
あとは「ここはこうじゃないか?」という妄想の世界ですよね。
自生地は寒暖差がすごくて降雨量が多くて…じゃあこうやって育てたら上手くいくかな?とか。
でもそれらの積み重ねが今に繋がっていると思います。
とにかく妄想の世界に浸る!それが楽しいし前に進むきっかけになります。
ーその妄想の世界で一般的に知られて無さそうなことはありますか?
当然の如く知っている人もいると思いますが趣味家の僕の考えです。
マダガスカリエンセはマダガスカルの東海岸、標高の高い滝霧の多いところに自生しているらしい。
他のビカクシダの葉は星状毛に覆われていることが多いですがマダガスカリエンセにはそれがない。ということは日光を遮るものがあるということ、その役割を霧が補っているのではないかと考えています。
そして霧に包まれているから常に湿っている…
ボコボコとした葉脈には水が貯まり霧で遮光された太陽光をレンズ効果で光合成してるのでは?とか。
あくまでも妄想です(笑)。
ーどこで販売されているのですか?
子株を取って増やしたものを売っているだけなので思っているほど数を出せないし、今のところはオークションがメインですね。
あとは育っても満足いく形と状態のものしか出さないのでそうなるとハイペースでは無理なんです。
そしてなんと言ってもヤフーオークションは楽しいんです!落札された方の喜びの声も聞けたりすると尚更です。
あと僕はプロじゃない。趣味家なので仕入れなども一切しないですし。
出た子株を育てて温室に入り切らなくなるので出品している。それだけのことなんです。
なので”WILDWOOD”みたいなイベントに呼ばれてタイミングが合えばそこで販売ってことはありますね。
ーお話しを聞いていると子株をたくさんとってれば誰でも出せそうにも聞こえますね
さきほども言いましたが子株って言ってもそれほど沢山でるものじゃないし…
日本全国には表に出ないだけで僕みたいな…僕よりも全然しっかりやってる人も多いはず…それでもそれほど出回らない。
ヤフーオークションなどで見ていても自分以外は出している人をほとんど見たことがありません。見るとすれば過去自分が売ったマダガスカリエンセから子株が出てそれを出品している人くらいです。
それであってもそんなに出てるワケじゃないですし…。やっぱり数が知れてる世界なんですよ。
輸入してまとまった数を流せば成り立つかもしれませんが、自分で育てて販売しようとするとビジネス的には成り立たちません。
温室内には自作の灌水システムが!貯めた雨水がチューブを伝って直接水やりができるようになっています。
ーマダガスカリエンセは幾つくらい所有されているのですか?
自分のコレクション含めると200株くらいです。
細葉と広葉の2つのマダガスカリエンセが増えて今に至ります。
マダガスカリエンセだけじゃなくて原種は全て揃っていますし、他の植物もありますので。
ー最後にこれからマダガスカリエンセを生育する人へのメッセージなどありますか?
とにかく乾かさない!!
とにかく常に湿らせてあげること。苔が芯まで乾いてしまうとすぐに死んでしまいます。
如雨露やドボンと水に漬けるでもなんでも良いので芯までしっかりと湿らせること。
霧吹きなどですと苔の芯まで水分が届かず弱ってしまうので注意が必要です。
あと板付が多いですが、それよりも本当に良いのはヘゴ板ですね。
僕が育てているものでもヘゴ板で育てるモノがやはりイキイキと育っているように思えます。通気性が良いので呼吸ができるんでしょうね。
ただ!通気性が良いと乾きが早いので常に湿らせてないとですぐに死んでしまう可能性もあるので、管理は板付の方がオールラウンドかもです。
他のビカクシダは乾いても耐えれますがマダガスカリエンセだけは別です。
とにかく絶対に乾かしてはだめです。常に濡れていないと。
そして自生地について自分なりに調べる!
今はネットで色々調べられるのですから、自生地を自分なりに分析して自分の家の環境に合わせてそれを用意してあげる。
それをやることで植物に対する愛情もさらにますのではないでしょうか。
人に聞くのは簡単です。でもそれぞれの環境が違うのだから断片的な情報を得てもしょうがない。
それよりも自生地を調べて再現するにはこうかな?みたいな調査と妄想の世界に浸るのが大事だと思います。
雑記
もともとロイ・ベールさんの書籍を所有していた方は他界する直前までその本を握りしめていたそうです。その大事な本を娘さんから借りて全ページコピーを取らせてもらったそう。
そしてジジイさんは元々図面を描くお仕事をしていたそうで製本もお手のもの。コピーといえど普通の本のように製本されていたクオリティにも驚きました。
1番驚いたのはそのDIY精神。温室から灌水システムなど全てが手作り。
そして周りに植物を知っている人も皆無、ネットにも無い情報を地道に調べ上げ圧倒的な妄想力で自生地を再現するイマジネーション。
今のこのネット社会では適当な情報が適当に転がっていますが、ジジイさんの調べた情報、そして妄想はどこにも落ちていません。
私たちももっともっと勉強して調べ上げないとダメだなと痛感しました。