植物界のキーパーソンにスポットを当ててインタビューする企画、第5回目。
今回はTOKYで販売する特別な用土、best soil mix の開発者でありBANKS CollectionのCOOを務める杉山拓巳さん です。
他のどこにも染まらない独自の視点で作られるプロダクト数々、そして植物の生産。
best soil mixのまだ語られていない真実にも迫ります。
杉山拓巳さん
生産者であり園芸家、そして自身では「熱帯植物栽培家」と名乗る杉山さん。
広大な温室にちりばめられたとてつもない数のきらめく植物たちを見るだけでも只者では無いと分かる。
今までの植物の常識を鵜呑みにせずにユニークで理論的なアプローチで生育を行っています。
BANKS Collection
広大な広さの温室で杉山さんが色々教えてくれました。お話しがとても面白いんです!
ー杉山さんの職業を教えてください。
ざっくりと言うと植物の生産を行っています、自分では熱帯植物栽培家と呼んでいます。
たまに園芸研究家と呼ばれることもありますが研究はしていないのでそれは違うと思っています。
植物の歴で言えば30年くらいだと思います。
サトイモ科のアンスリウムは一昨年まで6万鉢、今年は2万鉢程度出荷するそうです。
ー植物をはじめられたきっかけは?
父親が植物の趣味家だったこともあり小さい頃から色々なお店に連れて行かれ大人達の植物談義を聞いているうちに興味が沸いてきました。
先日小学校4年生の頃に書いた「30歳の自分へ」という手紙を発見し読んでみたら「30歳の僕は植物の交配をしていますか?」と書かれていました 笑。
実際やってましたからある意味小学校4年生の僕は先見の明があるなと…笑。
根伏せから5年で作られたオペルクリカリア・パキプス。杉山さん曰く「普通です」普通じゃありません。
ーBANKS Collectionはどういう会社(団体)ですか?
簡単に言うと「園芸の世界をもっと良くする会社」ですかね。
「もっとこうしたらいいのに」という、輸入なり生育なり、現代の園芸における自分たちなりの疑問点を解決をするための会社がBANKS Collection (以下BC) という位置づけだと思っています。
あとは製品を作るというところで言うと「今無いものを作る」ということを意識しています。
海外から色々と使えそうなアイテムを輸入してカスタマイズしてみて使えるか使えないか、などトライアンドエラーを常に繰り返しています。
一応人から聞かれると最近は「園芸総合商社」と言うようにしています。
BCのオリジナル商品「バイオマスプレート」に着生したティランジア イオナンタ ’フエゴ’の群生株たち。しっかりと着生させるまでは1年ほどかかるそうです。それにしても美しいですね。
ー会社を作ったいきさつを教えてもらえますか?
元々はBCのCEOである栗田が高校の同級生の務める会社の取締役だったんです(胡蝶蘭を取り扱う会社)。
その栗田がたまたま僕の温室に植物を見に来た次の日に経営計画書が送られてきて 笑。
「僕なら3年後にこうできます〜」みたいなことが書かれていました、、汗。
ただ僕は僕で会社を作ろうと思っていてそれに向かって動いていたのですがなかなか重い腰が上がらなかったこともあり栗田の方からそれであれば対等な立場で会社経営をしないか?という提案があったので受けることにしました。
会社を作ると決めた4日後に何故かTV番組「マツコの知らない世界」からオファーをいただき色々と加速した感があります。
水栽培された巨大なティランジア。「普通はやらない」ということを鵜呑みにせずに常に疑問を持って生育をしているそうです。
ー植物の生育について実践していることや考えていることを教えてもらえますか?
例えばチランジアの水栽培、普通の人はやりませんがこれで栽培すると通常の生育に比べて何倍ものスピードで大きく育てることができますし見ての通り株姿に支障がでることもありません(根が生い茂るチランジアに抵抗がある人はいるかもしれませんが…)
あとはビカクシダなど、今の主流として柔らかく作ってサッと根を伸ばす生育方法に疑問を持ちました。
僕は今best soil mixで育てたりもしています。
ビカクシダ(特に難物と言われるマダガスカリエンセなど)がダメになる大きな原因として「乾燥によるもの」という状態があげられます。
でもそこで「乾燥によるもの」って一体なんだろう?と考え直しますと根が収縮によって千切れると仮説しました。
そしてbest soil mixには根が収縮するような成分がほとんど入っていません。
best soil mix は徹底的に微塵を取り除いた硬質の赤玉土や鹿沼土を使っているため根が土に到達したところで土を壊せず分岐を促すため通常の水苔などよりも根の張り方が変わり分岐が多い根にします。
しっかりと根が張った状態で水の管理をしっかり行えば現状行われている柔らかく作る、というアプローチよりも丈夫で形良く作ることが可能と考えています。
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ここで話しがはずれてTOKYで管理しているマダガスカリエンセの子株をbest soil mixで管理したらどうか?という質問をしました。
問題なく生育できますが水苔と違う水やりを行う必要があるのでコツが必要なのと腰水管理をするとbest soil mixに染みこませてある成分が溶け出すので注意が必要、とのことでした。
そして杉山さん曰くその際のベストな水やりとして表面の1cm程度が濡れるような水やりを始め徐々に深く水やりをするといいそうです。
まずは地表から1cm部分にしっかりと根を張らせ少しづつ下げて行くことで全体にしっかりと根を張らせることができるそうです。
ただそれだとすぐに乾いてしまうので一日に何度が水やりが必要なようですので普通の人にはあまりお勧めできない、とも仰っていました。
TOKYは管理場を空けることもあるので普通に1日1度ほどの水やりを行おうと思っています。
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あとはチランジアの人為的な変異やそれらの固定作業の話しをお聞きしましたが正直かなり難しくここで書くことができないので詳しく知りたい方は「熱帯動植物友の会 会報」をご覧ください、と言いたいところですが現在は会員募集を行っていないようですね。
出荷を待つbest soil mixたち。
ーお話しの中で出てきた用土 best soil mixについてもう少し教えていただけますか?
この土を作るきっかけは例の「マツコの知らない世界」出演だったんです。
詳しくは言えないのですがあの番組に出演してそこで僕がある植物と土について発言したことによってとある方に怒られたんです。
僕は土をもっと固く作って根にストレスを与えてあげればもっと良い根が張れるのに、と思っていたのでこの機会にもっと真剣に土を作ってみようと思ったんです(文中でも触れている根が硬い土に当たって分岐することを指しています)。
まぁそのとある植物の事を悪くも言っていなかったのですが編集によってそう見えてしまったのもありましたがちょっと色々と証明する為に開発を始めました。
ーそこから本格的な開発がはじまったのですね?
そうですね、そこから自分の理想とする土や素材を探してトライアンドエラーを繰り返しました。
良い土や素材に出会いそして自分で配合するわけですがこだわった中の2つが「徹底的に微塵を排除する」「全ての工程において器具含めアルコール消毒を行う」ことです。
微塵は水やりで流れ出るわけですが全てが流れ出るわけではないので残った微塵により水道 (みずみち)ができてしまいます。その水道により細根を窒息させてしまうことがあったりしますので。
徹底的に微塵を取り除いた硬い土は根をドンドン分岐させます、本当は矢作砂や山砂などもっと硬いものを入れたかったのですがいかんせん、もの凄く重くなるのと植え込みがしにくくなるのでそれは断念しました。
軽石に関しては多くの用土にも入っていますがパーライトなどと違って水を吸い込むし吐き出す、という良い特性があります。
あとは表面に苔などが付いた場合それらが肥料分が多いかの目安になる。そして水やりをするたびに下に流れるという自然界の理と近い機能を果たしてくれます。
そしてこの土に関して他の方に真似の出来ない部分。用土全体に3種類の特殊な液体が染みこませてあり分かりやすく言うとその1つは「植物の化石」です。その他は企業秘密なのでお伝えすることはできません。
これらは微量なので成分表記する必要がないですし専用の機器でもってしても検出はできません。
ちなみにbest soil mixは僕が全て手作業で作っているのですが培養土屋さんに委託しようとお願いしたこともあったのですが工程があまりにも多いということで断られました笑。
と言うこともあり大量に作れるように機械を導入しましたので今後は播種・挿し木用や大鉢用の土を作って行きたいと思います。
品種不明のハイブリッド パキポディウム。この大きさで実生2年目だそうです。
ー植物に関して現在実験していることなどありますか?
ずっとやってきていることですが植物を早く大きく作る「早生栽培(そうせいさいばい)」にはとてもこだわっています。
早く植物を作ることで出荷するサイクルも早めることができますし何より僕の作った植物のサイズ感と歳月を聞いて驚く人の顔が面白いというのもありますね。
先日植物を研究する某大学の教授が訪れた際に「え、そんな時間でこんなになるの!?」と驚いていてそれを見るのがわりと楽しくて…笑
でもやってることは至ってシンプルだったりします。例えば皆が嫌う徒長も僕は積極的にそのメカニズムを活用します。
葉が徒長して長くなったりするのは太陽光を受ける面積が増えるってことですから僕は敢えて徒長させたり葉を多くして「グワっ」と大きくさせたりすます。
あとは根の先端を乾かさない。これはなかなか伝えずらい部分ですので皆さんで考えてもらえればと思います。決してつねにビタビタにしろってことじゃないですよ 笑。
とにかく!誰よりも早く大きく、誰よりも早く花を咲かせて種を採る、ということにとことんこだわっています。
特に原種の植物は基本的にセルフで受粉して種が採れるはずですし、もっと言えば雌雄異株でも絶対的に孤立した状況になれば雄も雌になったり、その逆もあり得ると考えています。植物に絶対は無いんです。
ちなみにハオルチアは水苔栽培すると休眠せずにめちゃくちゃ生育早いです。そんなアホなことばかりしてます 笑。
開花したビルベルギア オビ=ワン、親株はとにかくできる限り早く生育させて子株を出すことに注力しているそう。
ー最近の活動で面白そうなことがあれば教えて下さい?
若い子たちに夢を持ってもらいたいのもあって地元の農業高校と植物の色について今色々やっています。
アントシアニン(色素)を濃くして黒いハエトリソウや黒いサラセニアや黒いハオルチア・オブツーサ、もしくはピンクのオブツーサを作ることなんかにもチャレンジしています。
そこの実験室には今フラスコ内にアガベがたくさん入っていてそのうち見たことのないアガベをお披露目できると思います。
高校生たちが作った新しい植物が世界をざわつかせたりなんてしたら夢があって面白いですよね。
肥料や活力剤をミキシングして灌水ができるスプレー、使い勝手もそうですが見た目の格好良さにもこだわります。
ー今後リリースされる予定のプロダクトを教えてもらえますか?
さきほども触れましたが用途別のbest soil mix、そして根を強靱にすることにフォーカスした活力剤。
活力剤は根の部分を皮切りに部位に絞ったものも細かく出して行く予定です。
あとは写真にもあるような肥料や活力剤をミキシングして灌水できるスプレー。
細かいところで言えば植物に害虫が寄ってこないようにする受け皿やヒートマットなどなど…色々です。
貴重なアデニア・アキュレアータもありました、今アデニアで色々実験しているみたいです。
ーこれから植物を栽培する人、もしくは現在栽培で悩んでいる人へのメッセージなどあれば
植物は根を育てるもの、要は基本見えていないもの。育てるにはイマジネーションがとても重要です。
教科書通りに育てたって上手く育たないことなんていくらでもあります。
頭の中で植物を栽培できない人は実際に栽培したらやはり上手くできないはず。
植物の可能性は一方向じゃなくて何方向もある、そしてそれらのほとんどはコントロール可能です。
それを自分の手で探るのが楽しいんです。
植物を育てる、というよりも「根を育てる」という風に考えてみるといいかもしれません。
雑記
TOKYがBCさんを知ったのは杉山さんと友人の法花園の近藤さんの手引きでした。
「すごい土があるんですよ〜〜〜」という言葉に興味が惹かれ法花園のハウスに訪れ・・・そこからはあっという間に杉山さんの温室に導かれたような気がします。
インタビューをする中で何度も出てきた言葉「新しい」「今無い」などのキーワード。
深度やチャンネルは違いますがTOKYも同じようなことを考えて日々模索していると思っています。
たった数年の栽培歴とその10倍近く植物に費やしてきた人達ではやはり超えられない壁はあります。でもBCさんのような新しい考え方をする人達がいて正直とても嬉しかったです。
今後もBCさんとは色々プロダクト販売だけでなく仕掛けて行けたらと思っています。
巨大なティランジア・イオナンタ!!ティランジアは葉数を輸入時よりも増やして出荷するというこだわり。
ここ実は打ち合わせスペースです、凄すぎます!