植物界のキーパーソンにスポットを当ててインタビューする企画、第8回目。
今回は原種のさまざまな植物を扱うSPECIES NURSERY(スピーシーズ ナーサリー) 藤川さんにお話を伺いました。
第5回のBANKS Collection 杉山拓巳さんからのご紹介で実現いたしました。自然豊かな神奈川の高台に立ち並ぶハウスには数え切れ無い美しい植物が…充実したインタビューとなりました。
SPECIES NURSERY園主。
大学卒業後、建築関連会社に就職した数年ののち、 幼少の頃から植物好きだった特色を生かしたいと園芸店へ転職 店舗企画、店長などを経て、ティランジア界の第一人者のもとで 専属管理を任せられる2001年SPECIES NURSERY(スピーシーズナーサリー)を設立する 。
ティランジア(エアプランツ)・多肉植物・その他個性の強い植物を 取り扱い、その普及に努める
SPECIES NURSERY
園主藤川さん。最初は寡黙な印象でしたがインタビュー終盤はオチャメでファンキーな人と言う印象になりました。
ー植物のお仕事に携わってどれくらいなのでしょうか?
植物を触りはじめたのは小学生のころですが植物を生業として20年くらいでしょうか。
ちょうどガーデニングブームが訪れた時だったのでその当時は園芸店もとても活気に満ち溢れていました。
当時から振り返ると今はやはり園芸店は元気が無い印象ですね、植物はブームなのに変ですよね。
今はファッションやライフスタイル関連のお店で植物が売れるので時代の流れをとても感じます。
ぺラルゴニウム・シゾペタルム (Pelargonium schizopetalum)の美しい花。ハウスの中はいい香りに包まれていました。
ーブームと言うことで何か最近思うことなどありますか?
特にコーデックスが人気なのが面白いなと思います、昔は今ほど育ててる人が少なかったので… 笑。
ただこれらは特にそうですが伸ばすというよりも太らせるような栽培方法が求められるのでわりとマニア向けなんだろうなと思います。
まぁでも増やしやすい植物でも無いので「そのうち国内にも入ってこなくなっちゃうだろうな〜」とは思っています。
だから今持っている植物はみなさん大事にしてほしいですね。
ハウス内の一角には巨大なアデニア・ペチュエリー( Adenia pechuelii)が鎮座。
ー以前雑誌の企画で自生地に行かれていましたがその際になにか驚きなどありましたか?
驚きも何も…南アフリカなんてめちゃくちゃすごかったですよ!!
ケープタウンから上のナミビアの手前まで移動したのですが、もう、植物の層が半端じゃない、尋常じゃないです。
1つの地域で「どんだけの種類があるんだよ!!」と常識を覆されました。
ハンタム国立植物園という所のお話なのですがもともと牧場で牧畜が自生の植物を食べていたためにオーナーが植物園にしたそうです。
壊滅状態だったその地も20年もしたらとんでも無い植物の宝庫に変貌を遂げたそうです。
調査で1㎡の土を掘り返してみるととんでも無い数の球根が出てきて、全て数えたら2万個もあったそうです。
人気のいわゆるケープバルブが2万個…好きな人は気絶するでしょう。写真はドリミア sp (Drimia sp)
ー例えばそんな中に人気のブーファンなどもあったりするんですか?
ブーファンは人気があるからなのかどうかは分かりませんがほとんど見ることはできませんでした。
ただ運良くブーファン・ハエマントイデスを2株ほど見つけることができました。
まぁでも行くとこ行けばたくさんあるんでしょうね。皆それぞれの土地の地主は柵で囲って入れないようになっているのでその中はどうなっているかは確認できませんでしたから。
ーちなみに話はずれますがブーファンみたいな皮が密集した球根植物って土中に埋まっていたらすぐ腐りそうなイメージなんですがどうなんでしょう?
あ、自生地のものも見ましたが半分くらい出ています、完全に埋まっていませんでした。
これはブーファンなどの球根に言えることですが生育上であまりに球根を出しすぎると弱ります。ただ埋めると湿気の多い日本だと腐るリスクが高まるので1/3くらいを埋めてあげるのが良いと思います。
大きくするならなるべく埋める、現状維持で鑑賞が重要であれば球根を多めに出すような感じでしょうか。
ただ埋めてもブーファンなどはあれだけ皮がたくさんあるので芯まではそうそう腐らないと思いますよ。
スポットが美しい葉が人気のレスノバ・メガフィラ(Resnova megaphylla)
ー植物の世界の面白いというか不思議な?話があれば教えてください。
山取りされた立派な完成品の多肉植物なども元を考えれば自生地に生えているものでそれを取る人はおそらく地主や管理者にお金払わずに取っていると思うんですけど(お金払って取っている業者さんもいるかもですが未確認です)。
それが国内では立派な価格で取引されているって不思議な世界ですよね、もしかしたら自生地では雑草と変わらないかもなのに 笑。
一般の初心者の方は特に抜き苗でそれらを購入して上手く育てられないなんて普通で、長年栽培している僕らであっても未知の植物はいつもトライ&エラーですからね。
だからそうやって失敗しても愛情持って美しく育て続けてきた植物にはやっぱり価値があるんだなぁって我ながら思っています。
あと最近はネットなどを使って上手に植物を輸入している人がたくさんいますよね。
ちょっと複雑な気持ちになることもありますがそれも時代性を感じるユニークな事柄だと前向きに捉えています。
ただ古くから栽培や生産をしている人たちもこういう時代ですからそのあたりを意識して上手にお金儲けをできるようになればと思っています。
勿論僕も含めてですけど 笑
幾つものハウスの中を丁寧な説明の上で案内していただきました。ちなみに置いてある缶は灰皿だそうです^^ 。
ー今困っているようなことはありますか?。
BANKS COLLECTIONの杉山君とも話すのですが「植物の値付けって難しいよね」ってのは大きな課題ですね。(これは関連する記事を先行して書いています)
投機目的の思惑が介入したりすると価格が一気に高騰したり逆に翌年は増えすぎて価格が乱高下してしまったり…。
例えば僕たちは昔から維持している植物で、買った人たちは皆枯らしてしまった植物とかよくあります。
そういう植物は結局世の中にあまり出回っていない状態ですので価格も不安定と言うことになります。
そしてあまりにも安定しないと純粋に欲しい人たちが手にすることができません。
初心者の方にも勿論興味を持ってほしいのですがそういう人も様々な情報に右往左往されてしまい結局は大きな損をしてしまうこともあるので本当に値付けは課題ですね。
難しいとは思いますがレア、希少、投機、そういうことを超えて純粋に生育を楽しんでくれる人が増えればいいなと思っています。
美しく配置されたディッキアの実生ゾーン。愛情を持って、そして美しく生育されている姿勢に感服です。
ー値付けに関しては今後の大きな課題と言えそうですね。
これは僕だけに限らないですが地道にやっている人がちゃんと儲かるようにしたいです。
額に汗して働いている人(例えば生産者さん)こそが儲かるようにしたい。まぁこれは自分にも当てはまるので課題ですね。
植物の値段を維持して、そこに夢やあこがれもあって。
単純に金額を上げるとかではなく僕ら販売側もそうだし買う側にも新しい価値観が生まれればこういう悩みも減るのかなって。
あとは…希少とか人気があるとかそう言う要素だけでなく“思い出”や“思い入れ”があるからこそそれなりの値段をつけるということも大事にしています。
例えばホヘンベルギア・レオポルドホルスティ ‘ダンクローン'(Hohenbergia leopord-horstii ‘Dan clone’)というタンクブロメリアがあります。
これは有名なブロメリアのコレクターであるダンが作り上げたホヘンベルギア(通称:ダンクローン)なのですがこの株がアメリカのブロメリア協会のカンファレンスで賞を取ったんです。
ホヘンベルギア・レオポルドホルスティ ‘ダンクローン'(Hohenbergia leopord-horstii ‘Dan clone’)を手にする藤川さん。
僕はそのダンクローンを見てダンに「すごいよダン!!」と超興奮して賛辞したところダンが「そんなに好きなら…」と言って子株をくれたんです。
今はダンクローンと言う名前でそこそこ流通していますがその当時の子株をもし売るとしたら(売らないと思いますが)相当高い値段をつけると思います。
そこは先程お伝えした”思い出”などの目に見えないストーリーがその植物には詰まっていて、その価値にもし金額をつけるとしたらどうしても高くなってしまう。
そう言った“自分なりのスペシャルな植物”がこのハウスには本当に多くあります。見た目は他で流通しているものと同じでも纏うストーリーが異なるものが多いことをご理解いただけたらと思います。
最後に見せてくれた燃えるように赤いチランジア・ブルボーサ ‘レッドブル'(Tillandsia bulbosa ‘Red Bull’)。一つ一つの植物に思い入れがあります。
雑記
冒頭でも書きましたが藤川さんとお会いするのはこの日が初めて、お互い緊張していたと思います。受け入れてくれてありがとうございました。
様々な書籍でその執筆内容やお噂を聞いており”怖い人”という印象を持っていたのですがインタビュー終盤は本当にニコニコしてて優しい方だなと言う印象に代わりました。
とにかく「植物が本当に好きで好きでしょうがない人なんだな」と感じました。愛情でも経験でも遥か先にいる先人なので背筋が伸びる思いです。
この他にも小さい頃の”サボテン小僧”と呼ばれていた幼少時代のお話や渋谷のデパート屋上で実店舗をやられていたお話など盛りだくさん過ぎて今回のインタビューには載せることはできませんでしたがまた何かの機会でご紹介できたらと思います。
藤川さん(奥様も)ありがとうございました! また近々伺わせてくださいませ。
チ…チレコドン・ハリー!!!!(Tylecodon hallii)。
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