植物会のキーパソンにスポットを当ててインタビューする企画、第12回目。
今回は美しい八ヶ岳の麓に農園を構える大木ナーサリーさんにお話を伺いました。
夏型の植物が旺盛な日本において少数派であろう冬型植物を中心とした繁殖内容など。
農園に伺い大木さん自身にお会いした際に感じた他のどの農園の方とも異なる雰囲気に興味が俄然湧きました。
ちなみにインタビュー自体は今どきのテレワーク的にFacebookのメッセンジャーを使って行われました。
クリスマスローズ、シクラメン、ケープバルブ、コーデックスなどの栽培を主とした生産者。原種にこだわった、時代の流れに身を任せない独自の審美眼で美しい植物を育てる。
HP : 大木ナーサリー
Instagram : ohgi_nursery
ーいきなりですが大木さんはお洒落ですよね?
お洒落かどうかはわかりませんが元々の経歴はコム・デ・ギャルソンというファッションブランドの広報部に努めていた影響もあるかもしれません。
11年ほど務めましたね。
ーそれって植物の生産者さんとしてはかなり異色だと思います。
元々は東京芸術大学で美術史を学びまして、卒業すると美術館の学芸員やギャラリストなどになるのですがその辺が「向かないな」と思い始めた際にギャルソンの募集をたまたま見つけて。
ダメ元で応募したら入社できてしまいました。
ーギャルソンでは何をやられていたんですか?
ギャルソンというブランド自体が大変にアートと近い立ち位置のファッションブランドでしたので、アーティストが作った作品を使った展示やDMなどを作ったり、そういうことに携わっていました。
大木さんのご自宅には多くのアート作品が飾られていました。写真は現在意欲的に集められているDIEGO氏とやましたあつこさんの作品。
ーそんなご職業だった大木さんなぜまた植物の世界に?
昔自分が子供の頃、家の隣が空き地だったんですけどそこにクリスマスローズが植えられていたんです。
それがすごく綺麗というか面白いなぁと感じて、で、小学生ながら苗を探したのですが当時は今ほど人気も無くて。
地元の園芸店を探し回ったのですが見つからず、育てたい想いを抱いたまま時は過ぎていきました。
そして大人になりギャルソンで働いていた時、南青山にギャルソンの路面店があって、本社からそこにたまに行くわけですがその南青山にIDEEという家具やさんがありました。
その建物の中に花屋さんがありまして、その花屋さんの仕入れをされている方がかなり独特のセンスを持たれていて一般的ではない植物を結構おいていたんです。
実はTOKYのお客様でも熱心にクリスマスローズを集められているお客様もいらっしゃいます。
ー知りませんでした。ちなみにその花屋さんはどんな植物を置いていたんですか?
例えばボウィエア・ボルビリス(蒼角殿)なんかが普通に置いてあって、その当時はかなり珍しかったと思うんです。
そこにクリスマスローズが幾つか置いてあって、ただ子供の頃見たクリスマスローズはとても地味なものばかりでした。
しかしそこに置いてあったものはとてもカラフルで美しかったり、八重咲きのものがあったりなどとても魅力的で、子供の頃の欲しかった感情が蘇ってきたんです。
ークリスマスローズ、実は全く触ったことがないのですがどこがそんなに魅力的なんですか?
花弁に見える部分が実は萼(がく : 花びらの付け根にあたる部分)で、名前の通り冬に成長期を迎えますが花を落としてもその萼が花のようで美しい期間が長いところ。
あとは宿根草(しゅっこんそう)なので丈夫で厳しい環境でも育てやすいのも魅力ですね。
ーそのクリスマスローズにはまって…生産者になってしまったと?
はい、結局自分の欲しい品種などはなかなか流通していなくて、「なら自分で作ってしまえ」と思い立ちあれよあれよと数は増えていきました。
その当時は東京の小金井のアパートの庭で育てていましたが、数が増えすぎて大家さんに怒られてしまいました。
露天で育てられることもあり、順調に栽培所がドンドン手狭になりその後は都内を転々とすることになりました (笑)
ーそれで現在の山梨県は八ヶ岳に農園を構えたと?
有名なガーデンデザイナーのポール・スミザーという方の記事を何かで読んですごく面白いなと思いギャルソンを辞めて働きたいなと思い履歴書をおくりました。
ただ音沙汰なかったのですがその一年後くらいに連絡があって調布にある彼の事務所に話をしにいきました。
一年も連絡がなかったのでその時は特に就職したいとか無くて、逆にクリスマスローズを育てる農地を探している相談をしたところ現在の空いている農地を紹介してくれたんです。
標高が高すぎず低すぎず「ここはいいね」という話になり農地を借り、居住地含め山梨県に移住しました。
巨大な温室が何棟も立ち並んでいました。澄み切った空気に強い太陽光、植物を育てるには最高の環境の農園。
ーそこからどのようにしてケープバルブやコーデックスの生産につながっていくんですか?
単純にクリスマスローズだけを栽培するのはリスクがあるなと思い他のもの何かないかな?と思い、山野草やハーブなどをやり始めて。
たまたま植物が好きな友人が書いていたBlogの中に出てきたケープバルブのアルブカ属が目に止まり「葉がクルクルしていてなんか変だな」って妙に気になって。
そこから集め始めて、集めるうちに種がほしいなとなったので南アの種屋さんを見つけて種を輸入しまくっていたらいつの間にかこんなに増えてしまいました。
確かに初めて見たら「変」という表現がピッタリくるケープバルブのアルブカ。
ー詳しい期間はわかりませんが結構短時間で集めた印象を受けます。
気になった植物は徹底的に集めてしまう習性がありますね (笑)
ペラルゴニウムならペラルゴニウムで全部網羅しないと気がすまないというか。。
それは植物だけじゃなくて他の、例えばもともと好きなアート作品も常に集め続けています。
ーその中でも印象的な植物はなんでしょうか?
やはりペラルゴニウムですね。
長野県の佐久市に『臼田清華園』というナーセリーがありまして。
そこで初めてペラルゴニウム・トリステを見た時に何か感じるものがありました。
あの土塊のような地下茎から咲く美しい花、その魅力に取りつかれ、一気にペラルゴニウムを集めました。
ーペラルゴニウムは株と花の対比が面白いですよねぇ。
そうですね、ただやはり多肉系のものが中心ですね。
わけも分からず集めまくってた時期、南アの種屋さんから全てのペラルゴニウムの種を仕入れたのはいいけれど撒いたら雑草みたいなものが生えたりと。
多年草ならまだしも、一年草も結構あって「これは集める必要ないな」と、失敗も沢山あります。
ー集めるならやはり塊根系のペラルゴニウムだなと?
今ですとトリフォリオラツムというペラルゴニウムが特に気に入っていて。
地下茎も分けれるような構造ではないので根挿しもできませんし基本実生でしか増やせないんですよね。
花もすごく綺麗だし細かい粒感の葉が他のペラルゴニウムとはちょっと異なっていて好きです。
ペラルゴニム・ トリフォリオラツム。いい意味でペラルゴニウムっぽくない草姿がマニア心をくすぐります。
ーハウスを拝見するとそれほど人気の無さそうな種類の植物も多そうですよね?
例えばTOKYさんにもお送りしたSceretium(スケレチウム不明種SB661ブランドリフィール産)なんか全然流通してませんし特に人気もないと思います。
この植物は緑の葉の部分が休眠期はカサカサで枯れたようになって、そこが実は好きだったりします。
レアと言えばレアかもしれませんし、でもマイナーなだけだと思います。
あとこの植物から抽出したエキスを使ってストレスを緩和するような薬ができるんです。
その昔、南アの原住民が遠くに狩りに行く際にこれを持っていて食べたそうですよ。
とても珍奇な草姿のスケレチウム、今回特別に大株を仕入れさせていただきました。
ー一緒に送ってもらったヒポクシスも上から見るのと横から見るので全く見え方が違うのがユニークで素晴らしい植物ですね。
そのヘメロカリディアは葉裏が真っ白で綺麗ですし常緑なので育てやすいです。
成長も早いので数年育てれば迫力ある草姿になって楽しいです。
何十年育てても分頭などしないので増やすのはこれまた実生でしか増やせません。
そしてこれもまた薬になるようで、別名アフリカンポテトと呼ばれてて免疫系の薬になるそうです。
透き通るように白く、細かいウェーブを描く魅惑的な葉のヒポクシス・ヘメロカリディア。
ーあと農場の環境はとても良さそうに思えました。
真夏の日中はそれなりに暑いのですが夜は涼しいですし。
よく言う寒暖差が植物に良いってのはここで植物を育てて体現できていると思います。
後は標高が高めで紫外線が強いようで、サボテンの名人でおられる山本 規詔さんが農場に遊びに来られた際に「南アの自生地ととても似た環境で植物全体が締まっている」と仰っていました。
ー今後の活動など何かあれば是非。
秋のTOCで開催されるビッグバザールにはたまに参加してます、今年もコロナで問題なければ出たいと思います。
そこで皆さんに、流行っていなくとも自分が良いと思える植物をご紹介できればと思います。
雑記
今回大木さんの農園に伺えたのはビッグバザールなどでも植物販売されているKemuriradioさんのアテンドで実現しました。
InstagramやHPから感じたとおりの繊細な方でお話して一気に好きになってしまいました。
ゆったりとした話口調の大木さんはとてもシャイで自己主張などされる印象が全く無かったので逆にインタビューして光を当てられればと言う思いで実現しました。
ファッションやアートにも精通し、その審美眼を持って集め、栽培される植物たち。
その農園には人気種などもたくさんあったかと思いましたがそういったことにはあまり目が行かず「どれも美しいな」と言うフラットさを感じられました。
夏型のダイナミックな品種が好きな方にも繊細なデザインの冬型植物をこの機会に是非知ってもらえればと思いました。
大木さん、これからもよろしくおねがいします。そしてKemuriさん、ありがとうございました!!
本編ではあまり語られていませんが、頂いたシクラメンの美しい画像。